人工言語史

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日本語圏人工言語界隈史」も参照

人工言語史では、人工言語の歴史について解説する。

中世の人工言語

人工言語と暗号の境界は曖昧だが、人が言語を作ることができるという理念のもと、最初に計画的に作られたと思われる言語は、11-12世紀のドイツの女子修道院長ヒルデガルト・フォン・ビンゲンが考案したと思われる、リングア・イグノタ(未知なる言語)である。これはラテン語に影響された屈折システムと、既存の言語に基づかない単語による言語で、神学用語が多い。1011の単語を記した単語帳が写本で残っているが、例文には単語帳にない単語も見られる。13世紀のキリスト教宣教師ルルスは、改宗のために、命題を記号的に扱える人工言語Ars Magnaを考案した。Ars Magnaラテン文字を同心円の図形に配置するという記号のような記法を用いた。

近世の人工言語

16, 17世紀には、普遍言語論争と呼ばれる、普遍的な文字(真性文字, 普遍文字)による誰もが理解できる記法を開発しようとする哲学上の論争が起こった。ルルスの試みや、東洋の漢字、国民語の正書法の発展に伴う翻訳コストの増大などに触発され、パスカル、ベーコン、デカルト、ライプニッツ、メルセンヌなどが普遍言語論争に関わった。フランシスロドウィッグがA Common Writing、ジョージダルガーノがArs Signorum(記号術)、ジョンウィルキンズが真性の文字と哲学的言語に向けての試論、ライプニッツが一般的言語を発表した。これらの試みには、アダムの言語に回帰しようとする宗教的動機や、百科全書的な言語を作ろうとする哲学的、啓蒙的動機があった。

大航海時代の始まった16世紀にはトマスモアがユートピア、17世紀にゴドウィンが月世界の人、シラノドベルジュラックが月世界を舞台にした小説を発表した。これらのユートピア的幻想文学では、作中に人工言語が登場した。18世紀にはパシグラフィーと呼ばれる普遍言語が人気を博した。しかし哲学的言語は当初の理想を叶えられず挫折した。

近代の人工言語

19世紀には世界の人が共通に話せる国際補助語を作る試みが流行し、ヴォラピュク、エスペラントが登場した。20世紀には発展しつつあった言語学の知見を生かし、トールキンが指輪物語の中で、クウェンヤを創作した。21世紀には、発展した情報技術を背景に、個人が容易に辞書を制作編集、公開することが容易になり、オンラインで交流した人工言語の創作集団が登場するようになった。

年表

出来事 備考
12 世紀 Lingua Ignota
13 世紀 Ars magna
1638 『月世界の人』
1647 A Common Writing(『共通の文字』)
1661 Ars signorum(『記号術』)
1668 An Essay towards a

Real Character, and a Philosophical Language

(『真性の文字と哲学的言語に向けての試論』)

1677 『セヴァランブ族物語』
1678 Lingua Generalis
1710 『ジャック・マセの冒険旅行』
18世紀 『パシグラフィー』
1827 ソルレソル
1879 ヴォラピュク
1887 エスペラント
1907 『新しい国際語』


外部リンク

http://conlinguistics.org/conlinguistics/1589.pdf