意味設計法
意味設計法とは、言語の概念体系を予め定めることで計画的に造語する方法である。
一般に人工言語の単語は、既存の(自然言語の)単語から概念のみを引き継ぎ、それ以外の部分、すなわち形態や統語論的性質などを変えることによって作られる。しかし一方で、全く新しい固有概念をアプリオリに持ち込むこともしばしば見られる。このようにして出来上がっていく語彙の全てに、意味体系の一貫性を求めることは難しい。そこで意味設計法では、印象語義という考え方に基づいて単語の意味をより小さな印象語義ないしは意義素に分析しながら、単語の派生操作を定式化する。
何も無いところから全ての概念を丸ごと創造することができれば話は別だが、実質このようなことは不可能であるので、言語制作者は必然的に一つ以上の既存言語の概念体系を参照しながら語彙を用意していくことになる。ここで言語制作者は、元となる自然言語(あるいは十分に成熟した既存の人工言語)を自在に運用できる程度の習熟が望ましい。なぜなら、既存の単語の細かいニュアンスの理解が意味設計法の成果を大きく左右するからである。この元となる言語のことを基礎言語という。ここでは日本語に十分慣れ親しんだ読者を想定し、基礎言語に日本語を使って例示する。
分解法
既存の印象語義を分解し、その一部を新しい印象語義とすること。還元法とも呼ばれる。原始的で非局所的な印象語義が生まれる傾向にあり、意義素とはその最たるものである。
元 | 先 |
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「人気のあるとても大きなお祭り」 |
「数の膨大さ」 「知名度の高さ」 「祝い事をする」 「集団の活動」 |
「影の薄い人」 |
「知名度が低い」 「積極的ではない」 「忘れて思い出せない」 |
「怠惰な人」 | 「さぼり癖がある」
「何にも興味を示さない」 「寝て食うだけする」 |
統合法
複数の印象語義を一つの印象語義と看做す方法。付加変更法とも呼ばれる。限定的で局所的な印象語義が生まれる傾向にある。論理和的考え方。
元 | 先 |
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「失う」「信頼」 | 「信頼関係を失う」 |
「繰り返す」「読む」 | 「何度も読み直す」 |
「選ぶ」「戻す」 | 「選びなおす」 |
「試す」「失う」「繰り返す」 | 「何度も失敗する」 |
「孕む」「病気になる」「失う」 | 「病気になって流産する」 |
「消す」「書く」「繰り返す」 | 「何度も書き直す」 |
「物を作る」「道具」 | 「道具を作る」 |
「物を作る」「建物」 | 「建物を建てる」 |
「物を作る」「構造」 | 「組み立てる」 |
「命を取る」「生き物」 | 「獲物を狩る」 |
「命を取る」「食料」 | 「食べ物にする」 |
「命を取る」「呼吸」 | 「窒息させる」 |
「森」「類似性」 | 「同じものが並ぶ場所」 |
「森」「感覚」 | 「迷いやすい所」 |
「森」「資源」 | 「資源の宝庫」 |
比較法
複数ある印象語義を比較する事によって類似性や関係性を見つけ出し、新しく印象語義を作りながら、印象語義リスト全体を見直す方法である。この方法は印象語義が多ければ多いほど時間がかかるが、逆にあまりに少ない場合にもほとんど意味を為さない。論理積的考え方。
元 | 先 |
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「小さい」「少ない」「短い」「弱い」「狭い」 | 「些少さ」「貧弱さ」 |
「見る」「聞く」「嗅ぐ」「味わう」 | 「身体の感覚」「頭部にある器官」 |
「崩す」「壊す」「乱す」 | 「体裁を侵す行為」 |
「太陽」「月」「星」 | 「空に浮かぶ明るいもの」 |
「冷やす」「減らす」「失う」 | 「徐々に量を減らしてゆく」 |
「食べる」「飲む」 | 「栄養を摂取する」 |
連想法
連続して統合法を行うこと。または、連続して細かい範囲での比較法を行うこと。元となった印象語義とは全く異なったものが生まれるため、印象語義全体に多様性が生まれる一方、既存の印象語義と重複するものができてしまう可能性が比較的高い。
元 | 先 |
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「物を作る」「道具」 | 「道具を作る」 |
「道具を作る」「調達」 | 「必要な材料を集めてくる」 |
「必要な材料を集めてくる」「自力」 | 「自分で集める」 |
「自分で集める」「収集場所」 | 「資源が多そうな所に向かう」 |
逆転法
基本となる印象語義とは逆方向にある印象語義を見出すこと。否定法とも呼ばれる。二度適用しても元に戻らない場合もある。
元 | 先 |
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「数の膨大さ」 | 「数の些少さ」 |
「材料から道具を作る」 | 「作られた道具を使う」 |
「四肢を使ってうまく前へ進む」 | 「二足で直立して前へ進む」 |
「見るに堪えない姿」 | 「高貴で端麗な姿」 |