欠如動詞
欠如動詞(英:defective verb)とは、その言語の文法上存在するはずの活用形の一部を欠く動詞のことである。すなわち、活用表の一部が空欄となるような動詞である。
動詞の活用規則を適用して理論上の活用形を作れるとしても、その語形はネイティブにとっては「不自然」であると感じられており、実際に用いられることは基本的にはない。
欠如動詞の例(自然言語)
英語
- must「~しなければならない」:過去形を欠如する[1]。また、英語の助動詞[2]全般(can、may、mustなど)が不定詞、命令形、分詞を欠如する。
- beware「気を付ける」:不定詞や命令形でのみ用いられる。
なお、cutやhitなどは過去形がたまたま現在形や原形不定詞と同じ形をしているだけであり、過去形を欠如しているわけではない。
フランス語
- falloir「必要である」:三人称単数でのみ用いられる。
- pleuvoir「雨が降る」:三人称単数でのみ用いられる。
- frire「油で揚げる」:直説法現在時制単数などを除き活用形の多くを欠如する。過去分詞はあるので複合時制は問題なく表現できる。欠如している部分は代わりにfaire frireで表現する(frireは不定形のままで、faireのみを活用させる)。
欠如動詞の例(人工言語)
カルコレーシュ語
- famesǽl:祈願文「~でありますように」を作る動詞。直説法現在時制完結相(fames)でのみ用いられる。不定形のfamesǽlは実際の文で用いられることはなく、辞書の見出し語としてのみ存在する(カルコレーシュ語の辞書では動詞は不定形で載せることになっているため)。
- 対格支配以外の動詞:その意味上、受動分詞を欠如する。
欠如動詞に対する対策
同義語もしくは同義の成句で代用する
- 英語のmust:過去形を欠如しているため、過去に於ける義務はhad toで表す。
- 日本語の「要る」:話者や地域に依るが、過去形の「要った」が不自然と見做されることがあり、そのような地域では代わりに「必要だった」などと表現する。
活用形を欠如していない他の動詞(代動詞、コピュラなど)を補う
- フランス語のfrire:直前にfaireを補って、frireは不定形のままでfaireのみを活用させる。
- ヒンディー語の一般動詞:コピュラ動詞होना(hōnā)以外の動詞は直説法現在形を失っているので、代わりに「現在分詞+होना(hōnā)の現在形」で表現する。
そもそも欠如動詞であることが問題とならない場合
- 無人称動詞(フランス語のpleuvoirなど):その意味上、三人称単数でしか使い道がない。