音韻論

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音韻論とは、言語の話者が意識して区別する音素に着目し、音素の構造、配列、歴史的変化などを研究する言語学の一分野である。音そのものを扱う音声学よりは大きな対象を、単語を扱う形態論よりは小さな対象を扱う。

弁別的素性

弁別的素性とは

言語学では、話者が認識する音を音素と呼び、実際の音声と明確に区別する。なぜなら、言語によって同じ音とされる範囲は異なり、その言語の音素の範囲を知らないと、話者が認識している音が正しく分析できないからである。

たとえば日本語では、他の多くの言語と異なって、uの音が非円唇の領域に広がっているので、日本語のuの音は他の言語でoとして認識されることがある。また、言語によって母音の数は違うため、ウの音が2種類ある韓国語では、日本語のuの音がɰ(広めのウ)として認識され、口をすぼめないとuと認識されないかもしれない。

同じようなことが子音でもいえ、日本語では、taとdaは無声音と有声音として、声帯の振動が舌の破裂音と同時に始まる(有声)か、遅れて始まる(無声)かによって区別されている。しかし、韓国語や中国語では、taとdaは有気音と無気音として、舌の破裂音が息漏れを伴う(有気)か、伴わない(無気)かによって区別されている。日本語のた行は、どちらかといえば無気音として発音されるため、中国語や韓国語の話者には、dの音として聞こえるはずである。サンスクリット語など、有気音と無気音、有声音と無声音を全て区別する言語もあれば、ハワイ語のように全く区別しない言語もある。

このように、言語によって使う音の範囲がずれているので、言語を分析するときは、音を収録するだけではなく、その言語の話者がどの境界で、いくつの音を区切っているのかを知らなければならない。この音の境界を決める要素を弁別的素性と呼び、境界によって区切られた音を音素と呼ぶ。音素は語という分子を組み立てるための原子に相当する。音素という概念があることによって、人間は老若男女のさまざまな高さや声色の声を同一の言語の音として認識し、解釈することができるのである。

主な弁別的素性

母音

母音は、主に次の前後、広狭、円唇性三つの要素によって区別されている。そのうち、舌の前後と口の広狭の二要素はほとんどの言語で区別されるので、二次元のプロットとして表すことができる。 母音を二次元に表すとき、口が広いと、舌を前後に動かせる幅が小さくなるので、母音を二次元に表した図では、母音が底辺が小さい台形か、逆三角形で並べられることが多く、この台形や逆三角形の図を言語学では母音三角形呼んで、母音三角形上の領域として簡単にその言語での母音の範囲を示したりする。母音三角形に円唇/非円唇の要素を載せて立体にすることもできる。

  • 広、反狭、狭
    口を大きく開けると広母音、口を小さく開けると狭母音となる。aは広母音、eやoは反狭母音、iやuは狭母音である。
  • 前舌、中舌、後舌
    舌を歯に近づけると前舌母音、口の奥に引っ込めると後舌音になる。uは前舌母音、iは後舌母音である。ドイツ語のüのように中舌母音がある言語もある。
  • 円唇性
    くちびるを丸めて発音すると円唇母音、丸めないで発音すると非円唇母音になる。よく語学書に「口をエの形にしてウを出すつもりで」などと書かれるのは、円唇性の概念を日常語で表現したものである。

これらの他に、鼻に息を通すか(鼻音性)などが区別される

子音

子音は、主に調音位置、調音方法、有声性または有気性、鼻音性の四つによって区別される。言語により有声性と有気性の両方の区別があることもあるし、もっと別の区別を持つこともある。

  • 調音位置
    喉の奥から唇の先まで、人間の口を円筒と考えたときに、どこで気流をすぼめて音を出すかによって子音が変わる。喉の奥から順に、軟口蓋、歯茎、両唇の区別が多くの言語である。アラビア語のように、喉の奥の声門で発音を持つ言語、二箇所で同時に調音するももある。
  • 調音方法
    気流をどのようにすぼめて音を出すかによって子音が変わる。完全に止めて一気に解放すると閉鎖音、狭めてざらざらと音を出すと摩擦音、弱く狭めると接近音となる。
  • 有声性
    声門の振動が、調音と同時だと有声音、遅れると無声音になる。日本語、英語、サンスクリット語など多くの言語で区別される。
  • 有気性
    息漏れがあると有気音、ないと無気音になる。日本語や英語では区別されず、韓国語や中国語やサンスクリット語など多くの言語で区別される。有気音はph、th、kh、bh、dh、ghなどhをつけてラテン文字転写されることが多い。
  • 鼻音化
    調音時に鼻に息を通すと鼻音となる。nは調音位置が歯茎の鼻音、mは調音位置が両唇の鼻音である。鼻音は有声であることが多い。

その他

  • 声調
    多くの言語は、音の高さは補助的な情報と扱われ、弁別要素となる場合でも、高低の2種類程度しか区別されないが、中国語やベトナム語、マサイ語などでは3種類以上の高さや高さの変化の情報を持つ。