人工言語
人工言語とは、人や組織が意図して作ったり整えたりした言語のことである。人工言語ではない、人が普通使う音声言語や手話などを、人工言語に対して自然言語という。
人工言語という言葉
人工言語という言葉は、
- クウェンヤ、エスペラント、ロジバンのように、創作、国際交流、論理主義などの理念をもとに個人や組織が作ったもの(人工言語)
- インドネシア語、トルコ語、現代ヘブライ語のように、既に存在する自然言語を元に計画的に統合・造語・復活させ、現代化する過程が組織的に行われた言語(整備された自然言語)
- 記号学、記号論理学、数学に登場する論理式、オートマトンなどや、情報科学に登場する暗号、プログラミング言語などの、厳密な規則により、機械的操作で取り扱える符号(形式言語、コンピューター言語)
- 言語哲学の理想言語学派に登場する、哲学を記述することを試みる言語(人工言語(言語哲学))
- 海外語の組織的な翻訳造語、有機化学の命名法による物質名など規則的な造語、倫理的、政治的、組織的意図で置き換えられた語彙や単語群(特殊性を強調するための提喩)
- 暗号
について使われることがある。 1の人工言語がこの記事で扱う狭義の人工言語である。 2の整備された自然言語は一般に自然言語と考えられているが、現代化の過程を特に着目して言及するとき人工言語と呼ばれることがある。 3の形式言語およびコンピュータ言語は、自然言語に対してその厳密な性質に着目するとき、人工言語と呼ばれることがある。 4の人工言語(言語哲学)は、哲学用語であるが、他の人工言語と含めて語られることがある。 5の特殊性のための提喩は、他の単語と違って計画的に作られた単語であるという特殊性に着目するとき人工言語と呼ばれることがある。 6の暗号は、情報を隠すために単語を置き換えるなどの新しい言語を作るような方法をとるときに比喩的に人工言語と呼ばれることがあるほか、情報の隠匿のために作られた人工言語は、暗号を目的とした人工言語であり1と6の両方を兼ねる。
人工言語は、創作言語、架空言語、計画言語とも呼ばれる。創作言語は、創作を目的とした人工言語である。架空言語は、実用的に使われていないことを示す言葉である。計画言語は、自然言語も人が作ったという点で人工の言語である、という曖昧さを排する意味合いがある。人工言語という単語が、辞書や文法を決めるだけで、ラングとパロールを包括した言語の営み全体を再現できるふうに思わせる尊大な響きを持つことから、人工言語以外の呼び方を好む人がいる。
人工言語の歴史
詳細は「人工言語史」を参照
人工言語と暗号の境界は曖昧だが、人が言語を作ることができるという理念のもと、最初に計画的に作られたと思われる言語は、11-12世紀のドイツの女子修道院長ヒルデガルト・フォン・ビンゲンが考案したと思われる、リングア・イグノタ(未知なる言語)である。これはラテン語に影響された屈折システムと、既存の言語に基づかない単語による言語で、神学用語が多い。1011の単語を記した単語帳が写本で残っているが、例文には単語帳にない単語も見られる。13世紀のキリスト教宣教師ルルスは、改宗のために、命題を記号的に扱える人工言語Ars Magnaを考案した。Ars Magnaラテン文字を同心円の図形に配置するという記号のような記法を用いた。
16, 17世紀には、普遍言語論争と呼ばれる、普遍的な文字(真性文字, 普遍文字)による誰もが理解できる記法を開発しようとする哲学上の論争が起こった。ルルスの試みや、東洋の漢字、国民語の正書法の発展に伴う翻訳コストの増大などに触発され、パスカル、ベーコン、デカルト、ライプニッツ、メルセンヌなどが普遍言語論争に関わった。フランシスロドウィッグがA Common Writing、ジョージダルガーノがArs Signorum(記号術)、ジョンウィルキンズが真性の文字と哲学的言語に向けての試論、ライプニッツが一般的言語を発表した。これらの試みには、アダムの言語に回帰しようとする宗教的動機や、百科全書的な言語を作ろうとする哲学的、啓蒙的動機があった。
大航海時代の始まった16世紀にはトマスモアがユートピア、17世紀にゴドウィンが月世界の人、シラノドベルジュラックが月世界を舞台にした小説を発表した。これらのユートピア的幻想文学では、作中に人工言語が登場した。18世紀にはパシグラフィーと呼ばれる普遍言語が人気を博した。しかし哲学的言語は当初の理想を叶えられず挫折した。19世紀には世界の人が共通に話せる国際補助語を作る試みが流行し、ヴォラピュク、エスペラントが登場した。20世紀には発展しつつあった言語学の知見を生かし、トールキンが指輪物語の中で、クウェンヤを創作した。21世紀には、発展した情報技術を背景に、個人が容易に辞書を制作編集、公開することが容易になり、オンラインで交流した人工言語の創作集団が登場するようになった。
人工言語の分類
詳しくは「人工言語の分類」を参照
人工言語には、様々な分類法があるが、日本語圏では、国際補助語、芸術言語、工学言語に分類されることが多い。